名古屋地方裁判所 平成5年(モ)8453号 決定 1993年8月05日
主文
本件異議申立を却下する。
理由
一 本件異議申立の趣旨及び理由は、別紙のとおりである。
二 一件記録によれば、丁海荷役株式会社は平成五年六月四日当裁判所に和議手続開始申立をしたこと、同会社の申立に基づき同月七日同裁判所によって和議開始前の保全処分決定がなされたこと、本件異議申立人は、右和議申立会社に対する債権者として本件和議申立事件について利害関係を有する第三者であるところ、同月二二日当裁判所所属の裁判所書記官丙山春夫に対し、本件和議事件についての記録の謄写申請をしたが、同書記官は未だ和議開始決定前であることを理由に右謄写申請を許さなかったこと、以上の事実が認められる。
三 ところで、訴訟記録について当事者及び利害関係を疏明した第三者の謄写等の請求権を定めた民事訴訟法一五一条三項は、和議法一一条二項により和議手続にも準用されると解するのが相当であるが、民事訴訟法の右規定を和議手続に準用するに当たっては、準用の性質上、和議手続の性質に照らして一定の制限を受けるものと解すべきである。
そこで、和議法一一条二項は、和議手続に関しては同法に特別の定めのないときは民事訴訟法の規定を準用する旨定めているが、和議手続の性質は非訟事件と解するのが相当であるから、非訟事件の特質である非公開性は和議手続についても是認される。そして、和議手続が非公開とされる所以は、和議申立人及び利害関係人である債権者・債務者の利益(和議申立人についていえば資産状況や取引関係、債権者・債務者についていえば取引内容をそれぞれ他に知られたくない利益)を保護するとともに、和議手続の運営に支障を来すことのないようにするためであるから、和議事件の記録謄写の許否を検討するに当たっても、右の点を考慮して合理的に決定するのが相当であると考える。
しかし、和議手続においては、保全処分決定後であっても、未だ和議開始決定前にあっては、和議手続の存続も不確定であり、債権者の地位も和議債権者となり得ることが予定されているものにすぎない(この点は破産手続における破産宣告前の債権者の地位と同視し得る。)から、右手続段階においては、債権者の記録への関与も前記利益に対する配慮の観点から制限的に扱われてもやむを得ないと考える。したがって、債権者としては、その権利行使をするために必要があるとして、一定記録の閲覧を求め得ることは格別、記録の謄写を求めることまでは許されないと解するのが相当であり、このように解しても、右手続段階における債権者としての権利行使に支障を来すことはないと考える。
四 よって、本件謄写申請を許さなかった丙山書記官の処分は相当であって、本件異議申立は理由がないからこれを却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 寺本榮一)
別紙<省略>